大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和35年(ラ)22号 決定 1960年2月10日

抗告人 福田重正

主文

原決定を取り消す。

本件担保取消の申立を却下する。

理由

抗告代理人は、「原決定を取り消す。」との裁判を求め、その理由を別紙添付の書面記載のとおり主張した。

よつて按ずるに、本件記録によると、次の事実が認められる。山上勝次を債権者とし抗告人を債務者とする東京地方裁判所昭和三二年(ヨ)第四三一号不動産仮処分事件につき、同裁判所は山上勝次に保証として金三万円をたてしめて仮処分決定をなし、その執行がなされたこと、山上勝次は右仮処分事件の本案訴訟において昭和三四年四月一六日敗訴の判決を受け、同判決は同年五月五日確定したので、その執行処分を取り消し、同年六月九日東京地方裁判所に対し民事訴訟法第一一五条第三項による権利行使の催告を申立て、同裁判所は同年七月二三日に抗告人に対し、催告書をもつてその送達の日から一四日以内に担保権利者としての権利を行使すべき旨を催告し、同書面は同月二五日に抗告人に送達せられたが、右期間内に抗告人において権利の行使をなさなかつたため、同裁判所は右山上の申立により同年一二月一二日担保取消決定をなし、右決定は同月一五日抗告人に、昭和三五年一月七日山上勝次に各送達されたこと、しかるところ、抗告人は昭和三五年一二月一九日、抗告人を原告とし、山上勝次を被告として、東京地方裁判所に損害賠償請求の訴(同庁昭和三四年(ワ)第一〇、〇七六号)を提起して、権利の行使をなし、同日これを証明して本件抗告をなすに至つたことが認められる。

しかして、担保取消につき権利者の同意があつたものとみなされ、一旦正当に担保取消決定がなされても、右決定が確定するまでに、権利行使の事実を証明して抗告すれば、権利者は同意があつたものとみなされることを免れるものと解するのが相当であるところ、前叙のように、原決定にはそれがなされた当時においては格別違法の点を見出し得ないのであるが、抗告人において権利行使の事実を証明して本件抗告をなすに至つた以上は、結局担保取消を阻止し得べく、原決定は失当に帰したものと解するの外はない。

よつて、原決定はこれを取り消し、本件担保取消の申立はこれを却下すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 二宮節二郎 奥野利一 大沢博)

抗告の理由

一、抗告人は訴状記載の通り山上勝次の不当な仮処分並に訴訟に依り金拾五万円也の損害を蒙つたので本日訴提起証明書及び右訴状副本に依りて証明する通り本日東京地方裁判所に対して損害賠償請求の訴を提起した。

二、山上勝次は東京地方裁判所昭和三十二年(ヨ)第四三一号に依りて抗告人に対し不動産仮処分執行を為し其の担保として金参万円を供託し次で権利催告に依る担保取消決定の申立を為し右事件の担保取消決定は之を許可されて昭和三十四年十二月十三日抗告人に対して送達せられた。

三、然れども右担保取消決定に依りて保証金を山上勝次に還付せられる時は抗告人の右担保がなくなるので右担保取消決定の御取消相成度く茲に即時抗告為す所以である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例